痛いおっさんの話だと思っていた|『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』感想

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仮面ライダーが好きすぎてこじらせた人の話だと思っていた。

40歳、独身、定職なし。山にこもって熊と組み合い、変身ポーズを繰り返している。字面を並べただけで笑い話で、実際こちらも、そのつもりで観始めた。ところが、この世界には扮装ではない本物のショッカーが実在している。そこで話のジャンルが入れ替わる。痛い大人を眺める番組のはずが、その大人は命を懸ける場所に本当に立ってしまう。

そこから先は、憧れを途中で降りた人間にとってなかなか居心地が悪い。彼らは絶対になれないと分かっているものを目指していて、それでも現実と空想の距離が話数ごとに縮まっていく。怪人と戦えることを、命の危険より先に「嬉しい」と言って泣く。そんな連中を24話ぶん見せられて、こちらは今年観たアニメのなかでも指折りに好きな作品だと言い切ることになった。欠点はいくらでもある。それは後半でまとめて書く。

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昔の憧れをどう扱うかという一点では、『クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲』も同じ場所を突いてくる。あちらは過去に留まりたい気持ちを描き、こちらは憧れを抱えたまま前に出る。裏返しの関係になっている。

🎬 予告編

この作品を3行で

  • 40歳・無職・山ごもり。仮面ライダーになる気だけは本物の男
  • 笑って観ていると、実在するショッカーと怪人が出てくる
  • 石森プロ・東映が公認。変身音が、本物のまま鳴る

作品情報

  • 作品名:東島丹三郎は仮面ライダーになりたい
  • 放送:2025年10月4日〜2026年3月21日(連続2クール・全24話)
  • 原作:柴田ヨクサル(ヒーローズコミックス/協力:石森プロ・東映)
  • 監督:池添隆博/シリーズ構成:待田堂子
  • アニメーション制作:ライデンフィルム/音楽:TeddyLoid
  • 主演:小西克幸(東島丹三郎)
東島丹三郎は仮面ライダーになりたい ポスター
出典:TMDB

📖 あらすじ(ネタバレなし)

東島丹三郎、40歳。幼い頃に浴びた仮面ライダーが忘れられず、大人になった今も本気で「なる」つもりでいる。山にこもって体を作り、変身の所作を反復し、同じ夢を捨てられなかった仲間たちと集まっては技を掛け合う。周囲から見れば、いい歳をした大人がやっている「ごっこ」でしかない。本人だけが、ごっこだと思っていない。

その丹三郎が、ショッカーの扮装をした集団による強盗事件に出くわす。仮装した犯罪者を殴り倒しただけ——そのはずだった。ところが、その事件は入口でしかなかった。怪人は実在し、改造人間が街を歩いている。子どもの頃に信じていた世界が現実の側へせり出してきたとき、彼らの「ごっこ」は、命を懸ける場所へ変わる。

✨ この作品の魅力

ここがすごい!

  • ふざけた題材に、誰ひとり手加減していない
  • 殴られた顔が歪む。打撃に重さがある
  • 石森プロ・東映が協力し、本家の映像と音が本物のまま出てくる
  • 松崎しげるが歌い、TeddyLoidが全編を鳴らす

ふざけた題材に、誰ひとり手加減しなかった24話

この作品の企画書を想像してみてほしい。「40歳の無職が仮面ライダーになりたがる」。これだけである。通常なら一発ネタとして数話で終わる。それを連続2クール、全24話でやり切った。

成立している理由ははっきりしていて、題材のバカバカしさと、作り手の本気度が同じ振れ幅で衝突しているからだ。修行パートを例に取ると分かりやすい。素手で熊に向かっていくところまでやる。それを「大人のお遊び」として茶化す描写がひとつも入らない。彼らが積んだ苦行の量を、こちらが数えられるように積み上げてくる。だから終盤、彼らが本物の怪人と向き合ったとき、勝てるかもしれないと本気で思ってしまう

もうひとつ効いているのが、公認であることだ。石森プロと東映が協力していて、本家の映像・効果音・楽曲が画面に出てくる。極めつけは第1話で、劇中に流れる『仮面ライダー』の本郷猛を、藤岡弘、本人が演じている。ファンが作った二次創作の熱量ではなく、権利元が本気で乗った上での熱量になっている。変身音が鳴った瞬間の説得力が、まるで違う。

ここで正直に書いておくと、こちらは第1話の時点で「仮面ライダー好きをこじらせた狂人の話」として観ていた。その見立てが話数を追うごとに崩れていく。修行が積み上がり、ついに怪人と殴り合う番が回ってきたとき、彼らの顔に浮かぶのは恐怖ではなかった。夢がかなう瞬間を、これほど恐ろしい形で見せる作品はそうない。

殴られた顔が歪む。キックは、ここぞまで取っておかれる

アクションの手触りが独特で、殴るたびに相手の顔が歪み、もらった側は確実に効いている。派手に吹っ飛ばして終わりではなく、プロレスに近い重量感の積み方をする。原作の劇画タッチをそのまま動かしているので、一発ごとに痛みが画面に残る。修行の描写が丁寧なぶん、その拳がどれだけの時間で作られたかも分かる。納得感がある殴り合いだ。

効いているのはライダーキックの出し惜しみだ。丹三郎はここぞという場面まであれを使わない。憧れの技を、憧れているからこそ軽々しく撃たない。この一点だけで彼の信仰の深さが伝わる。変身シーンの作画と効果音、そして本家に寄せた声の再現度も高く、特撮の質感まで再現しにいっている。

松崎しげるが歌い、TeddyLoidが全編を鳴らす

音楽が全編を支えている。担当のTeddyLoidは『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』の劇伴で知られ、Adoの「踊」を共同で手がけた音楽家だ。オープニング「Wanna be」はTeddyLoid feat. Shigeru Matsuzaki & TOPHAMHAT-KYO名義で、ラップをTOPHAMHAT-KYOが担い、サビを松崎しげるが歌う。昭和の熱唱とクラブミュージックが、同じ1曲のなかで握手している。作品の構造そのものだ。

劇伴の物量も尋常ではない。サントラに入っている劇伴だけで65曲あり、24話ぶんの戦闘・修行・ギャグ・情けない日常に、それぞれ専用の曲が割り当てられている。戦闘中に流れるのは1971年の主題歌「レッツゴー!!ライダーキック」の現代アレンジで、あの曲が鳴った時点で画面の勝敗はもう決まったようなものだ。作り手が本気なのは映像だけではないと、音のほうからも突きつけてくる。

エンディング「ワンモアタイム」はTeddyLoid feat. 時任良治。映像は本編とほぼ関係のないたこ焼きが出てくるだけなのだが、毎話これを見せられると癖になる。サウンドトラックは2026年1月28日発売で、劇伴65曲にOPとEDのTVサイズを加えた全67曲入り。観終わったあとも、このサントラはしょっちゅう流している。作品から離れても、曲だけで十分に成立している。

深いテーマ

この作品で本当に戦っている相手は、怪人よりも「いい歳して」と笑う視線のほうだ。丹三郎たちが痛いのは、彼らが間違っているからではなく、こちらが途中で降りたからである。夢を持っていた側からすれば、彼らは眩しすぎて直視しづらい。

印象に残った3つの場面

ひとつめは第1話。ショッカーの扮装をした強盗に出くわした丹三郎が、お面をかぶって立ち向かう場面だ。殴りながら泣いている。憧れた側に立てた喜びと、ようやく来たという安堵が同時に出ていて、この時点で作品の芯が見えてしまう。ギャグとして始まった画が、5分後には涙で終わる。

ふたつめは中盤のトーナメント。ライダーになりたい者どうしが正面から潰し合う、ヒーロー対ヒーローのタイマンである。誰が勝ち上がるかは最後まで読めなかった。負ける側の格を落とさない組み立てになっていて、敗因が毎回はっきり示されるので、勝敗がついても誰も軽くならない。

みっつめは最終盤、蝙蝠男との決戦だ。ここは熱すぎた。戦闘の最中に主題歌が流れ出すという反則みたいな演出が入り、さらに本家の力を借りた一瞬が重なる。彼が「ごっこ」ではないと言い張り続けた24話ぶんの積み重ねが、この数分に全部乗ってくる。

観終わったあとに残ったもの

彼らは憧れを降りないまま40歳まで来てしまった人たちで、その一点だけで、こちらは彼らに勝てない。ところが観たあとに残ったのは、負けた気分ではなく元気だった。笑われるくらいでちょうどいいという開き直りが、しばらく効いている。

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こんな方におすすめ!

😅 ここが惜しい

完璧な作品かと聞かれると、全然そんなことはない。欠点はかなりある。

中盤の中だるみは、はっきりある

最大の難点はここだ。中盤の数話は、抜いても話が通るのではないかという密度になっている。修行とトーナメントに尺を割いた結果、1話あたりの前進量が落ちる区間があり、そこで脱落した人がいてもおかしくない。同じ場面を「熱い」と受け取る人と「長い」と受け取る人で評価が真っ二つに割れているので、テンポを重視するタイプの視聴者ほど厳しく出るはずだ。

怪人が量産されている割に、世界が動かない

これだけ怪人と戦闘員が大量生産されていたら、とっくに社会問題になっているだろうという違和感が最後まで消えない。ショッカー側の行動もかなりザルで、組織としての目的が最後まで見えてこない。世界征服を掲げる集団が何を実行しているのか、24話を通しても輪郭が出ないまま終わる。敵の設計図が薄いぶん、戦いの緊張感が主人公側の熱量だけに依存している。

女性キャラの身体描写に癖がある

女性キャラの胸や露出の強調が全体的に強く、青年誌の作風がそのまま出ている。話に集中したい場面で視線が逸れる、という指摘は視聴者側からも数多く出ていて、実際この点を入口の抵抗として挙げる人は多い。慣れる人は慣れるが、苦手な人には最後までノイズとして残る。子どもと一緒に観る用途にも向かない。

ここが残念…

  • 中盤に、抜いても成立しそうな区間がある
  • ショッカーの目的と組織像が最後まで描かれない
  • 回収されない線を残したまま終わる(続編があれば解決する類の欠点ではある)
  • 女性キャラの身体描写が強く、苦手な人には最後までノイズになる

こんな方には向かないかも…

  • 展開のテンポを最優先する人(中盤で失速を感じやすい)
  • 敵組織の設定がきちんと説明されないと気になる人
  • 女性キャラの身体描写が苦手な人/子どもと一緒に観たい人

サウンドトラック購入先

🎬 「東島丹三郎は仮面ライダーになりたい」が好きなら絶対見るべき3選

少林サッカー

バカな題材を、本物の技術と本気度で殴りにいくという一点でまったく同じ作品だ。少林拳でサッカーをするという企画そのものは笑い話で、実際に笑いながら観るのだが、蹴りの一発ごとの重さと役者の身体能力が本物なので、途中から真顔になる。ふざけていることと手を抜いていることは別だという実例として、東島丹三郎の隣に置ける。

👉 「少林サッカー」感想|バカ映画の最高峰が20年経っても愛される理由

サムライフラメンコ

ヒーローに憧れた青年が、特殊能力もないまま正義の味方をやり始める2013年のアニメ。こちらも途中で作品のジャンルが入れ替わり、個人の憧れの話だったものが、本物の怪人が出てくる話に変質していく。東島丹三郎を観て「この構造には見覚えがある」となった人は、だいたいここに行き着く。着地の仕方は東島とかなり違うので、比べると面白い。

キック・アス

能力ゼロの一般人が、コスチュームだけ着てヒーローを始める2010年の映画。当然ボコボコにされる。憧れだけで武装した人間が現実の暴力と接触したらどうなるかを、東島丹三郎よりずっと痛い側から描いている。あちらが「夢がかなう恐ろしさ」なら、こちらは「夢に体がついてこない現実」。同じ問いの裏表として観ると効く。

📺 配信サービス別・視聴ガイド

『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』はどのサブスクで観るのがおすすめ?

結論から言うと、主要なサービスはほぼ全社が見放題なので、すでに契約しているところで観るのが一番安い。そのうえで新規に選ぶなら、判断材料は無料体験の長さと全24話を走り切れるかどうかになる。

無料体験が31日間と最も長いのはU-NEXTで、全24話を余裕をもって完走できる。とにかく安く済ませたいなら月額550円のDMM TV(14日間無料)が最安で、アニメの本数も多い。すでにプライム会員ならAmazon Prime Videoで追加料金なしに観られるので、そこが最短距離だ。中盤に中だるみのある作品なので、無料体験の期間内に走り切りたい人は、週にまとめて観る前提で選ぶといい。

📚 原作情報

原作は柴田ヨクサルによる漫画で、2018年に『月刊ヒーローズ』で連載開始、2026年8月時点も「コミプレ」で連載中。アニメが描いたのは蝙蝠男との決戦までで、物語はその先も続いている。既刊18巻(2026年5月7日発売の第18巻が最新)。テンポは自分で決められるので、アニメで足踏みした区間も原作なら一息に進める。

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📝 まとめ

中盤はだれる。敵組織の設計は雑で、回収されない線を残したまま終わる。それでも、この作品を今年観たアニメの最上位に置くことになった。理由は単純で、絶対に届かないと分かっているものへ全力で手を伸ばす人間を、24話ぶん本気で見せられたからだ。修行の量にも、殴り合いの重さにも、鳴っている音楽にも、手加減した箇所がひとつも見つからない。

周りから見れば彼らはただの痛い大人で、作中でもそう言われる。それでもやめない姿を最後まで見せられると、こちらが降りた場所のほうが問題に見えてくる。夢を持っていた記憶がある人ほど、後半で妙に苦しくなるはずだ。苦しくなって、そのあと少しだけ元気が出る。配信は主要サービスのほぼ全社で見放題なので、契約済みのところからそのまま入れる。まずは第1話、お面をかぶって泣きながら殴る場面まで観てほしい。あそこで乗れるかどうかで、残り23話の価値が決まる。

⭐ 作品の特徴

評価項目評価
熱量★★★★★
アクション★★★★☆
音楽★★★★★
物語の構成★★★☆☆
予備知識なしでの間口★★★☆☆

うさぎ亭的おすすめ度

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐☆☆

8.3 / 10

欠点を全部数え上げて、なお今年の最上位に入る