ボーダーライン:ソルジャーズ・デイは1作目から観るべき?前作との違い

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この続編は、前作から三人を失っている。監督のドゥニ・ヴィルヌーヴ、撮影のロジャー・ディーキンス、音楽のヨハン・ヨハンソン。2018年の『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』に残ったのは、脚本のテイラー・シェリダンと、ベニチオ・デル・トロの顔だけだ。

それでも私は肯定派だ。今回はアメリカという国家が、自国のために倫理をすっ飛ばして動く。カルテルより国家のほうが暴力的に行き切る、という話になっている。ただし前作と比べてどちらが好きかと聞かれれば、私は前作を選ぶ。そして1作目から観るべきかと聞かれたら、絶対に観たほうがいいと答える。理由は記事の中で書く。

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先に1作目を確かめたい人は、『ボーダーライン』のレビューから。今作で誰が何を失った男なのかは、そちらを読めば5分で分かる。

🎬 予告編

この作品を3行で

  • 麻薬の次に国境を選んだ、続編ではなく地続きの別件
  • カルテルより、それを潰しにいく国家のほうが怖い122分
  • 前作を観てから入ると、面白さが二段階変わる

作品情報

  • 作品名:ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ(原題 Sicario: Day of the Soldado)
  • 公開年:2018年(日本公開 2018年11月16日)
  • 監督:ステファノ・ソッリマ
  • 脚本:テイラー・シェリダン(前作と同じ)
  • 出演:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、イザベラ・メルセード
  • 上映時間:122分
ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ ポスター
出典:TMDB

📖 あらすじ・ネタバレなし

アメリカ国内で自爆テロが起きる。犯人が国境を越えて運び込まれていたと判断した政府は、密入国ビジネスを握るカルテルを叩く方針を決める。ただし正面から叩くのではない。カルテル同士を戦争させて、勝手に潰し合わせるという手を選ぶ。

実行役に呼ばれるのが、前作でカルテルに家族を殺されたアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)だ。作戦は、対立組織のボスの娘イザベル(イザベラ・メルセード)を誘拐し、相手の仕業に見せかけること。ところが計画は途中で政治の都合によって覆され、アレハンドロは少女を抱えたまま国境地帯に取り残される。もう一本、貧困からカルテルの運び屋になっていく少年ミゲルの線が並走する。

✨ この作品の魅力

ここがすごい!

  • 台詞をほとんど使わず、目の芝居だけで人物を動かすデル・トロ
  • 開始10分で、この世界に安全圏はないと分からせてしまう冒頭
  • 国家が倫理を飛ばして動き、その手当てがさらに事態を悪くしていく流れ
  • 旋律を捨てて一音を鳴らし続ける、圧力としての劇伴

説明の台詞がないのに、この男が何をする気か分かってしまう

アレハンドロは自分の内面をほとんど喋らない。何を考えているかを説明するくだりが、この映画には用意されていない。それでも次に何をする気なのかが、こちらには伝わってしまう。全部、目でやっている。

相手を撃つ直前の目と、少女を見ている目と、死んだ娘のことを考えている目が、はっきり別物として撮られている。まばたきの間隔と焦点の位置が違うだけなのに、別人が座っているように見える瞬間がある。デル・トロは顔の下半分をほとんど使わずに芝居をする俳優で、この映画はその一点に全体重を預けている。

看板が作品ではなく俳優のほうに移っている、と言ってもいい。彼が抜けたら成立しなかったはずだ。

開始10分で、映画のルールが確定する

冒頭で起きる自爆テロは、この作品がどういう手つきの映画かをそのまま宣言している。ここで受け取るのは怖さではなく、この世界には安全圏が用意されていないという規則のほうだ

効いてくるのはこの後だ。ルールが分かってしまったので、以降は画面に誰が映っていても、その人が最後まで生きている保証がない状態で観ることになる。銃を持った人間が出てくるかどうかは関係ない。車が停まるだけで、こちらは身構えるようになる。開始10分の投資で、以降ずっと続く緊張が前借りされている。

カルテルより、それを潰しにいく側のほうが怖い

ここが今作でいちばん強い。前作でカルテルの側にあった無法が、今作では国家の側に移っている。対立する組織をぶつけて共倒れにさせる、という発想が会議室から出てくる。しかもそれを止める人が誰もいない。

ギャングの暴力には少なくとも上限がある。金と縄張りという目的があるからだ。国家という装置には、その上限がない。予算も装備も法解釈も自前で用意できるので、行けるところまで行ってしまう。この映画が怖いのはそこで、しかもその手当てが次の問題を生み、それを隠すためにさらに大きな手当てが必要になるという順番で話が転がっていく。事態が悪化していく速度に嘘がない。

タイトルの「ボーダーライン」が指しているのは、地図の上の国境だけではない。人として越えたら戻れない一線のほうも同時に指していて、映画はその両方を、越えた人間と踏みとどまった人間を並べる形で見せてくる。

深いテーマ

前作は「無力な正義が無法地帯に放り込まれる話」だった。FBI捜査官という、法の側の目を観客の代理として置き、その目が通用しない場所を見せる構造になっていた。今作にはその代理人がいない。誰の肩にも乗れないまま、カルテル・アメリカ政府・メキシコ警察・少年たちの間を移動させられる。正義の持ち主が個人から国家へ移り、しかもその国家が最も容赦なく動くので、観客は最後まで着地する場所を与えられない。エミリー・ブラントの不在は欠員ではなく、この構造の一部として機能している。

🎭 印象的なシーン

弁護士を撃つシーン。予告編にも使われた連射で、私はこれを勝手に「アディオス撃ち」と呼んでいる。すごいのは連射そのものではなく、撃っているあいだに彼の目つきが変わっていくことだ。一つのカットの内側で人が変質する。銃の反動を吸ったまま前に出ていく体の使い方も含めて、この映画のデル・トロを一枚で説明できるカットだ。

耳の聞こえない男性の家で、手話を交わすシーン。荒野の暴力から切り離された、数少ない静かな時間だ。アレハンドロが手話を使えるのは、殺された娘に耳が聞こえなかったからだ。映画はそれを台詞で説明しない。前作を観た人だけが、この静かな数分の意味を受け取れる。1作目を観てから入ると面白さが変わる、と書いたのはこういうところだ。

冒頭、スーパーマーケット。武器を持たない、買い物に来ていただけの母と娘が巻き込まれる。母親が懇願する声が入り、その直後に爆発が来る。順番が残酷なのは、懇願を先に聞かせているからだ。この映画は観客に「間に合うかもしれない」と一瞬だけ思わせてから、それを潰す。

💭 観終わったあとに残るもの

どこにも拍手のしどころがない。悪が倒れて終わる映画ではないし、誰かが救われて終わる映画でもない。手を叩く先が最後まで見つからないまま、エンドロールが来る。

ラストは決着を付けずに、次の問いを差し出す形で終わる。私はこれを心地よく受け取った。放り出されたとは感じなかった。悪の親玉が倒れて幕、という終わり方をこの作りで出されたら嘘になるからだ。ここまでリアリティを積んだ以上、こうとしか終われない

ただし一つだけ、当時の観客と今の私たちで条件が違う。公開時のレビューは「続きが早く観たい」で締められているものが多いが、第3作は7年経った2026年9月現在も公開されていない。2026年8月に、ジョシュ・ブローリンが企画は動いている・撮影も近いうちに始まると語ったと報じられたのが最新の動きだ。監督も脚本家も公開時期も、まだ決まっていない。つまりこの宙吊りは、今のところ宙吊りのままで完結していると思って観たほうがいい。

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こんな方におすすめ!

😅 ここが惜しい

画の美しさだけは、引き継がれなかった

冒頭に書いた三人の不在が、いちばん分かりやすく出るのがここだ。前作の画には、暴力を映しているのに構図として美しい、という妙な緊張があった。国境の地形を空から捉えるショットや、暗視ゴーグル越しの夜間作戦がそうだ。今作にその種類の美しさはない

面白いのは、変わったものと変わらなかったものの内訳だ。監督も撮影も音楽も交代しているのに、脚本のテイラー・シェリダンだけは続投している。だから話の骨格と台詞の温度は前作と地続きなのに、画と音だけが別人の手に渡っている。「悪くはないけど普通の映画になった」という感想が多いのは、たぶんこの内訳を言葉にできないまま感じ取っているからだ。ソッリマ監督の腕が落ちるという話ではない。怖さの質が、何か起きそうな不穏さから、ただそこにある暴力へ変わったのだ。

復讐という一本の軸が、揺らいでしまう

これが私にとっていちばん大きい引っかかりだ。前作のアレハンドロは、家族を殺された復讐という一本の軸だけで動いていた。だから観客の感情も一本でよかった。今作は、イザベルという守るべき相手が途中から乗ってくる

守るものができた人間は、行けるところまで行けなくなる。結果として前作クライマックスのようなアレハンドロ無双は成立しないし、こちらの感情も一本に定まらないまま最後まで来る。消化不良感は残る。

ただ、自分でこう書いておいて、逆のことも思っている。ここまでリアリティのある作りにした以上、一人の男がカルテルを壊滅させるという結末が起こせるはずもない。無双が成立しないのは作りが甘いからではなく、作りが正直だからだ。惜しいと感じたところと、いい落としどころだと思っているところが、同じ一点から出てきている。

テーマを、登場人物に喋らせてしまう

この映画は、越えてはいけない一線という主題を、画と構成だけで十分に見せられている。越えた少年と踏みとどまった少年を並べる、それだけで伝わる。にもかかわらず、その主題を作中人物の口で説明させてしまうくだりがある

言われた瞬間に、それまで自分で組み立てていたものを取り上げられた感じがした。押し付けがましい、という言い方がいちばん近い。黙っていれば一段上に行けたところだ。

ここが残念…

  • 前作にあった映像の美しさは引き継がれていない
  • 主人公の動機が一本に定まらず、こちらの感情も宙に浮く
  • 主題を台詞で説明してしまう箇所がある

こんな方には向かないかも…

  • 物語がきれいに決着する映画を求めている人
  • 誰かに感情移入して観たい人(乗れる人物が用意されていない)

サウンドトラック購入先

音楽はヒルドゥル・グズナドッティル。チェロに電気的なフィードバックをかけた楽器で、旋律をほとんど作らず一つの音を鳴らし続ける。劇伴というより圧力に近い。家で観ると音量に手が伸びるのは、この音のせいだ。

🎬 「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」が好きなら絶対見るべき3選

ジョン・ウィック

上で「復讐の軸が揺らぐのが惜しい」と書いた。その不満をまるごと裏返すとこの映画になる。守るべき相手が最初にいなくなるので、主人公は最後まで一度も揺らがない。守るものがない人間はどこまでも行けるという事実を、2時間ぶん見せられる。アレハンドロ無双が観たかった人が行くべき場所はここだ。

👉 『ジョン・ウィック』のレビューはこちら

人狼 JIN-ROH

国家機関が個人を駒として使い、用が済めば切る。骨格がそのまま重なるうえに、守るべき少女が現れて任務と衝突するという展開まで同じ形をしている。違うのは温度で、こちらは終始冷たい。国家の側の怖さを日本語の作品で確かめたいなら、これが最短距離にある。

👉 『人狼 JIN-ROH』のレビューはこちら

オッペンハイマー

国家が目的のために倫理を後回しにし、その決定が取り返しのつかない場所まで転がっていく。会議室で決まったことが、外の世界を作り替えてしまう順番が同じだ。銃撃戦は一発も出てこないのに、体感の重さはこちらのほうが上をいく。

👉 『オッペンハイマー』のレビューはこちら

📺 配信サービス別・視聴ガイド

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』はどのサブスクで観るのがおすすめ?

見放題で観られるのはU-NEXT・Amazon Prime Video・Huluの3社だ。どれを選んでも本編は同じなので、判断材料は無料体験と、前作『ボーダーライン』も一緒に観られるかどうかになる。

すでにプライム会員なら追加費用ゼロで観られるので、Amazon Prime Videoが最短だ。どこにも入っていないなら体験期間がいちばん長いU-NEXTが向く。2作を並べて観ても期間内に収まるからだ。Huluには体験期間の設定がないので、月額を払う前提で選ぶことになる。

📀 Blu-ray・円盤情報

この映画は音がほぼ主役なので、配信の圧縮音声で観るのと円盤で観るのとで体感がはっきり変わる。手元に置くならスペシャルプライス版のBlu-rayが手頃だ。

📝 まとめ

1作目から観るべきか、という問いへの答えを先に置いておく。絶対に観たほうがいい。単体でも筋は追えるが、アレハンドロが何を失った男なのかを知っているかどうかで、手話のやりとりも、彼が少女に向ける目も、意味が変わってしまう。前作を先に観た人だけが受け取れるものが、この映画には確実に埋めてある。

そのうえで、前作と今作のどちらが好きかと言われれば私は前作を選ぶ。国家を利用して自分の本懐を遂げる男の話のほうが、軸として強かったからだ。それでも今作を勧める理由は、闇を徹底的に照らすというシリーズの姿勢が、今作では国家そのものに向いていることにある。1作目が見せたのは無法地帯の底だった。2作目が見せるのは、その底を作っている側の会議室だ。爽快感を求めて観ると事故る。逆に、重いものを浴びる覚悟がある夜には、これ以上ない一本になる。

⭐ 作品の特徴

項目評価
緊張感★★★★★
主演の芝居★★★★★
テーマの射程★★★★☆
映像の美しさ★★★☆☆
物語の決着★★★☆☆
爽快感★☆☆☆☆

うさぎ亭的おすすめ度

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐☆☆☆

7.2 / 10

前作の軸の強さには届かない。それでも、闇の照らし先を国家へ動かした点で観る価値がある一本。